那智盤歩

アルセーヌ・ルパンシリーズについて書いていきます。

813連載版・単行本版(3種)比較その2「惨劇②」

 

813の連載版と単行本版(手持ちの3種)の比較記事です。

  • 「…」の有無、「!」「?」の違いは載せていません。
  • 微妙な言い回しの違いは原文併記していますが、文章自体が大きく異なる箇所は日本語訳のみを載せています。
  • 重要な違いだと判断した箇所は色をつけています。
  • 日本語訳はすべて拙訳です。

前回はこちら

nachibanpo.hatenablog.com

 

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では行ってみましょう、今回は第一章のⅱ〜ⅲ(連載版の第一章ⅱ)です!

 

 

連載版

「ほら! やっぱり! 安心しましたね! アルセーヌ・ルパンは優雅な強盗だ、流血は嫌悪を催す。他人の財産を奪うような……まあちょっとした過ち以外の罪は犯したことがない! だからあなたはご自身にこう言い聞かせている、ルパンは無益な殺人などという恥ずべきことはしないだろう、と。もちろんです……しかしあなたの殺害は無益でしょうか? すべてはここにかかっている。今(Et en ce moment)、私は誓って大真面目ですよ。では、始めましょう」

 

1910年版・1921年版・1932年版

「ほら! やっぱり! 安心しましたね! アルセーヌ・ルパンは優雅な強盗だ、流血は嫌悪を催す。他人の財産を奪うような……まあちょっとした過ち以外の罪は犯したことがない! だからあなたはご自身にこう言い聞かせている、ルパンは無益な殺人などという恥ずべきことはしないだろう、と。もちろんです……しかしあなたの殺害は無益でしょうか? すべてはここにかかっている。今(En ce moment)、私は誓って大真面目ですよ。では、始めましょう」

 

連載版・1910年版・1921年

「ケッセルバッハさん、パリに着いたその日、あんたはバルバルーという名の探偵事務所の所長と面識を持った。その上バルバルー氏は、秘書のチャプマンに気付かれないように、あんたと手紙や電話で連絡を取るときは大佐と名乗っていた。言っておくが、バルバルーほど正直な人間はいないよ。だが俺にとっては幸運なことに探偵事務所の従業員に俺の最高の仲間がいてね。そういうわけで俺はなぜあんたがバルバルーに接触したのかを知り、知ったからにはあんたに関心を持ち、あんたを訪ねようという気にもなったわけだ。合鍵を使って何度か家探しさせてもらった……もっとも(d'ailleurs)、目的の物は見つけられなかったが」

 

1932年版

「ケッセルバッハさん、パリに着いたその日、あんたはバルバルーという名の探偵事務所の所長と面識を持った。その上バルバルー氏は、秘書のチャプマンに気付かれないように、あんたと手紙や電話で連絡を取るときは大佐と名乗っていた。言っておくが、バルバルーほど正直な人間はいないよ。だが俺にとっては幸運なことに探偵事務所の従業員に俺の最高の仲間がいてね。そういうわけで俺はなぜあんたがバルバルーに接触したのかを知り、知ったからにはあんたに関心を持ち、あんたを訪ねようという気にもなったわけだ。合鍵を使って何度か家探しさせてもらった……残念ながら!(hélas !)、目的の物は見つけられなかったが」

 

連載版

ルパンはマルコが鏡を壊す音を電話口で耳にしたに違いなかった。(Il du entendre au bout du fil le bruit que Marco faisait pour briser le miroir,)勝ち誇って叫んだからだ。

 

1910年版・1921年版・1932年版

ルパンは電話口でマルコが鏡を壊す音を耳にしたに違いなかった。(Il du entendre le bruit que Marco faisait, au bout du fil, pour le miroir,)勝ち誇って叫んだからだ。

 

連載版

「返事をしろよ、ケッセルバッハ。これは難問かい? もし承諾するなら、四十八時間以内に、あんたのルデュックを見つけてやる。とにかくこの男が問題なのだろう、え! この件はこの男次第なんだろう? 返事をしろってば! この男はなんなんだ? なぜあんたは探す? この男について何を知っている?」

 

1910年版・1921年版・1932年版

「返事をしろよ、ケッセルバッハ。これは難問かい? もし承諾するなら、四十八時間以内に、あんたのピエール・ルデュックを見つけてやる。とにかくこの男が問題なのだろう、え? この件はこの男次第なんだろう? 返事をしろってば! この男はなんなんだ? なぜあんたは探す? この男について何を知っている?」

 

連載版

 グレルは猛然とベルを鳴らした。何も起きなかった。引き上げようとしたその時、グレルは不意に身をかがめると鍵穴に素早く耳を押し当てた。

「聞いてみて……声がする……そうだよ……はっきりと……苦しそうな声……呻き声だ……」

 彼はガンガンと(formidable)ドアを叩いた。

 

1910年版・1921年版・1932年版

 グレルは猛然とベルを鳴らした。何も起きなかった。引き上げようとしたその時、グレルは不意に身をかがめると鍵穴に素早く耳を押し当てた。

「聞いてみて……声がする……そうだよ……はっきりと……苦しそうな声……呻き声だ……」

 彼はドンドンと(véritable)ドアを叩いた。

 

連載版

ボーイのひとりが走ってその場を離れた。グレルは右へ行ったり左へ行ったりと(allait de droite à de gauche,)騒がしく落ち着きがなかった。ほかの階の従僕が集まり、フロントや経営陣がやって来た。

 

1910年版・1921年版・1932年版

ボーイのひとりが走ってその場を離れた。グレルは右へ行ったり左へ行ったり(allait de droite et de gauche,)騒がしく落ち着きがなかった。ほかの階の従僕が集まり、フロントや経営陣がやって来た。

 

連載版

二人は救い出された。しかしグレルは不安なままだった

「それでケッセルバッハさんは?」

 

1910年版・1921年版・1932年版

二人は救い出された。グレルは不安なままだった

「それでケッセルバッハさんは?」

 

連載版

「気絶している」とグレルは彼に近付きながら言った(dit Gourel, en approchant de lui)。「きっとヘトヘトになるまで頑張ったんだろう」

 

1910年版・1921年版・1932年版

「気絶している」とグレルは彼に近付きながら言った(dit Gourel, en s'approchant de lui)。「きっとヘトヘトになるまで頑張ったんだろう」

 

連載版・1910年版・1921年

卒中(Une apoplexie)、かもしれませんよ……それとも動脈瘤破裂でしょうか」

 

1932年版

鬱血(Une congestion)、かもしれませんよ……それとも動脈瘤破裂でしょうか」